また三沢の話。
三沢の死因は、バックドロップを受けたことによる「頚髄離断」だった。
詳しくは知らないが、脳から首に通る神経が全て切断されたということらしい。
全く受け身を取らなかったと考えるのが自然だろうか。
もしくは、衝撃を受けたら受け身を取っても無駄なほどの状態だったか。
となると、やはり事故前から朦朧とするような前兆があったのか。
試合中に、しきりに首を振っていたという話もあるようだ。
彰俊やレフェリーの西永を責める気は全くないが、彰俊がもし異変に気付いてもっと安全な技でフィニッシュしていたら。確信が持てなければ、組み合った時に客に気付かれないように三沢に確認していたら。
試合中の彰俊に無理なら、西永が三沢に確認を取るか、彰俊に「社長の様子がおかしいから投げ技はやめろ」と指示できたら。
最悪の事態は避けられた可能性はあるだろう。
もちろん、そんなことは難しいのは承知である。
出来なくて当然であるから、誰も悪くない。
相手が三沢ということもあり、安心感も裏目に出た。
ただ、ここで思い出したのが、居酒屋カンちゃんの主人として有名なキラー・カーンが、アメリカでアンドレ・ザ・ジャイアントと対戦した時のエピソード。
酒好きのアンドレは、この日も二日酔いでリングに上がり、試合中に勝手に転んで自らの体重で足を痛めてしまった。
自分で勝手に転んでレフェリーストップなんてマヌケな結果にできるはずもなく、周囲が焦っていると、カーンはトップロープからアンドレの足めがけてニードロップを繰り出し、「足を折った」という形にしてフォール勝ちした。
もちろん、実際にはアンドレの足には当ててないだろう。
この機転で試合は成立し、アンドレ自身はもちろんプロモーターからも評価され、足を折られた復讐にアンドレがカーンを付け狙うというストーリーで戦おうとまで提案された。
帰国後のキラー・カーンは“アンドレの足を折った男”としてメイン級の選手に躍進している。
もちろん、三沢の事故とはケースが違うのだけど、自分がプロレスラーを尊敬する最大の理由は、この「アドリブ」の能力である。
豪快なだけのようでいて、周囲の変化に細心の注意を払い、アクシデントに遭遇しても乗り越えてしまう。それどころか、アクシデントがあったことで、もともとの台本以上に面白い試合に変えてしまうこともある。
プロレスというのは、舞台演劇やに芸人のネタに似ている。
どれも、アクシデントや客の反応に即座に対応できなければ、一流ではない。
大きく違うのは、演劇や漫才ならウケなかった程度で済むが、プロレスは一瞬のアドリブの間違いによって相手が命を落とす。
逆に言えば、アドリブで相手の名誉を守ったり、命を救うこともできる。
だから、アドリブの利くプロレスラーは偉大だと思う。
何が言いたいかというと、自分にとって最近の最大のテーマが「アドリブ」なんだ。
それを考えさせられる事件だったとも思った。
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