福満しげゆき氏は、「ガロ」の読者コーナー『4コマガロ』から本誌に入選し、デビューを果たした漫画家だ。その後は、エロ本や「アックス」などを経て、「モーニング」に連載するなど、近年のガロ系作家の中ではトップクラスの活躍を見せている。
自分と福満作品との出会いは、『まだ旅立ってもいないのに』という作品だ。
ショーモナイ作品ばかりが並んでいた二期目の「ガロ」に掲載され、その中で明らかに異彩を放っていた。
丁寧に描き込まれた画面、冴えない暗い青春の悩みをテーマにしながら、どこか吹き出してしまいそうな雰囲気、私は一読しただけで魅了された。
「ガロ」のマンガは、情念だけで描いて技術が伴ってないパターンと、技術だけが優れていて構成が残念なパターンが多く、それが一つの問題点だったのだが、福満氏のマンガは確かな技術とモヤモヤした情念が、どても良いバランスで両立していた。他にも「みか月さん」「妹味」「つまらない映画の中の君とつまらない映画の中の僕」など、初期は本当に傑作が多い。
この人は本物だと感じ、密かに尊敬すらしていたある日、「アックス」の読者コーナーに福満氏が電話番号を載せた。確か、映画の話ができる友人が欲しいので連絡ください、といった感じの内容だったと思う。特別な企画とかじゃなく、普通に読者の手紙として載っていた。
ドキドキしながら電話してみると、すぐに福満氏につながった。
作品のことや「ガロ」のことを話し、感動した覚えがある。
さらに、福満氏から会って話をしようと言われ、翌日に氏のアルバイト先で会うことになった。
「アックス」で連載されていた『僕の小規模な失敗』を読んだ人なら分かると思うが、作中にも出てきたあの中古レコード店だ。当時は福満氏は大学生で、東久留米駅からすぐのところに店はあった。
カウンターに座りながら様々な話をした。
客は少なかったが、たまに一人二人と来て、マンガ論を語り合ってるときに福満氏が「殺すのは簡単だけど、殺して盛り上げるのは卑怯だ!」と熱く語ったため、客の女性が怯えながら店を出るという一幕もあった(福満氏は気付いてない)。
作品はダウナー系だが、実に熱い人なんだなと思った。
福満氏は元々は「ジャンプ」などメジャー誌が好きで、奇をてらった作品が多い「ガロ」で、あえてアクションの多い作品をやろうとしたと語っていた。その作戦は成功し、確実に目を引く存在になっていた。
「アックス」でも短編をぽつぽつと発表しだした福満氏は、『僕の小規模な失敗』の連載を開始。本人いわく、ガロ系の『まんが道』を目指したという。
実際に会ってから薄々気付いていたのだが、福満氏は本人そのものが面白い。本人の悩みや社会の見方、自分への評価が面白い人なのだ。だから、自伝ともいえる『僕の小規模な失敗』は成功した。
福満氏は、自分はダメだと悩みながらも開き直ろうとはしない。このままじゃダメだダメだと、堂々巡りの不安を募らせる。ダメだけど前向きなのだ。変な言い方だが、後ろ向きに前進しようともがいている感じ。だからこそ、彼の悩む姿は暗くならない。作品も日常の悩みや恋人との出会いなど、普通に描いてしまえばつまらなくなるテーマも、福満氏だからこそ面白くなる。
『僕の小規模な失敗』は、メジャー誌「モーニング」の目に留まり、『僕の小規模な生活』として同誌で続編を連載することになった。結婚後の話になり、どちらかといえば奥さんとのエピソードに重点が置かれるようになる。
現在は連載は休止中だが、近々再開が予定されている。
福満氏の存在を「モーニング」の連載で知った方も多いと思う。
単行本も次々と発売され、メジャー作家への階段を確実に登っている。
しかし、自分は今の福満氏の作品を好きになれない。
ある程度、誰にも受けやすいとは思うのだが、初期作品にあった面白さがない。
こういうと、昔からのファンの戯言に聞こえてしまうが、これは事実だと思うし、初期の面白さを多くの人に知ってもらいたいから、あえて今の人気に水を差すようなことを書く。
福満氏は確実に“巧い”作家だ。技術があるからこそ、雑誌に合わせたような作品も書ける。しかし、モヤモヤした悩みと技術の両輪で進んできた福満氏のマンガが、技術だけになっているように感じるのだ。別の悩みは作品に見えているが、それは売れっ子マンガ家の悩みであって面白いといえるものではない。
ただ、福満氏自身が青春の悩みや童貞マンガ的なポジションに留まることを嫌って、別のジャンルに進もうとしたのは分かる。それは正しい選択だとも思う。しかし、色が付くことを嫌って別ジャンルに進出したのに、強い奥さんと情けない亭主のホームドラマ的マンガを描く漫画家と世間に認識されてしまっては本末転倒だ。
これだけ苦言を呈しておいて何だが、自分は福満氏が商業誌に消費されてしまう作家だとは思っていない。自分の表現というものを忘れていないことも知っている。
きっと、ガロ系がメジャーに吸収された後の新たな展開を見せてくれると信じている。
それまで自分は、本人に嫌われても「あの頃の福満しげゆきは良かった!」と言い続けたいと思う。
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単行本を友人が持っていて、進められるがままに読んだのが「まだ旅立ってもいないのに」とか「僕の小規模な失敗」とか読んだ時は
あぁ~すごくくるものがあると思いました。それ以来、福満先生のファンです。
ローリングさんが知り合い同士なのも羨ましいw
あ、私はローリングファンでもありますよ。まじで
自分も一読しただけで感覚的に好きになりました。
しかし、現在の作風はいただけません。前に福満氏が酔っ払って「天狗になったら言ってくれ」と言ったので(本人は覚えてないと思う)、自分は嫌味を言い続けてやろうと思います。
>あ、私はローリングファンでもありますよ。まじで
こう言ってくださるのはpsycheさんだけです。泣けてきました。
頑張って不謹慎な更新とかをやっていこうと思います。
本人そのものが面白いじゃないか!と、私も思いましたね。
トークショー最中に、「こんな身の丈に合わないこと、やらなければよっかった!」とか、自問自答しちゃうところとか、マンガのまんまでした。
なんか、エッセイ(?)まんがじゃなく、ストーリー物を久々に読みたいです。(私が知らないだけで、どこかの雑誌に掲載してるのかもしれないけど・・・)
小規模生活の、絵の密度が気になります。
わかりやすい記号的な感じになってるのかな?
まさに「情念」が薄くなってるような。。。。
今回のローリングさんのプログ読んで、福満さんへの並々ならぬ愛情を感じました。
そんで、私も(福満さん同様)4ガロの頃からローリングさんのファンですよ~(うひゃー、恥ずかしい)
トークショーは、夜のひるねでしょうか。自分は、行けなかったんですよね。喋ったら、本人が確実に面白いので、あと十年くらい経って熟成したら、杉作、みうら、根本、蛭子系の芸風に行ってくれると信じてます。
ストーリー物は「生活」でやろうとしたんでしょうが、どうなんでしょう…
ただ、少なくともほのぼの4コマを書いているよりは、次に繋がると思うので、おそろかにしてほしくないと思いますが。
「小規模な生活」の絵は確かに気になりますね。
福満さんが「まだ旅立ってもいないのに」で、草を一本一本書くのが大変だったけど充実していた、と語ってたのを思い出します。編集者の意向とか色々あるのかも知れませんけどね。あんまり、絵的にも落ち着いてもらいたくない気がします。
>4ガロの頃からローリングさんのファンですよ~
また貴重な!4ガロの頃からというのがヤバイ気がしますが、とても有難いです。いろいろと頑張ります。本当にありがとうございます。
サインももらいました。
ローリングさんも、いつかトークショーやってくださいwww
絵についてですが、どんどん、サンリオ化してきてるような。
ねこぢるみたいに、東京電力のキャラクターとか、いつかやりそうな気も。。。
>あと十年くらい経って熟成したら、杉作、みうら、根本、蛭子系の芸風
ホントですね。
しばらくしたら、タモリ倶楽部とかに出演してそうです。(童貞特集とか?)
いや、さすがにそれはどうかと思いますが…w
トークショーできるくらいに喋りが立つようになったら考えます。たはは。
福満絵のサンリオ化ですか。確かに、そういわれると。
元々イラストっぽい絵柄ですし、キャラクター展開とかありそうですね。
フリーマガジンの表紙とか、ある意味キャラクターみたいなもんですし。
個人的に、宣伝キャラにするならバーコードのおじさんにしてほしいです。
タモリ倶楽部も出演してそうですね。
それに、タモさんも十年後に、まだタモリ倶楽部やってそうだ。
この文章、すごく興味深く読ませていただきました。
もっともっと読みたいです。
そういやはじめに福満さんを見出したのは4コマガロだったよなーと、ふと思い出しました。
白取さんに、個人的なメッセージをお送りしたいのです。
ですが白取さんのブログはコメント禁止になっていて、
メールアドレスも私にはわからないので、
白取様、もしもこのコメントをお読みでしたら、何かご連絡を取れる方法を
ご提示願えませんでしょうか…。
ローリングクレイドルさんのブログ経由で、
白取さんにご連絡するというのも、お二方に失礼ですよね。
本当にすいません・・・。
その白取さんに逸材として扱われた16角形さんは、ものすごく自信を持っていいはずですよ。
メジャー舞台での一般化。
長期にわたる執筆により増える消費感。
どれも避けて通ることは難しいですね。
映画や音楽、小説なんかでも
初期の、熱のこもった作品がいつまでも愛されるというのは
よくあることのように思えます
一般化され、平坦になり、ただの記号となりつつも
新しい境地を見出す作家もたくさんいますし、
福満さんもチャレンジ精神は忘れないでほしいと思います。
いちファンとして。